起立性調節障害と自律神経column

Update:2023.10.15

起立性調節障害と自律神経とは

POTSは、立ち上がる際に血圧が急激に低下し、めまいや動悸、倦怠感が生じる状態です。これは自律神経の調節が乱れた結果起こります。自律神経は心拍数や血圧を調整する役割を担い、交感神経と副交感神経がバランスを保つことが重要です。POTSでは特に交感神経の異常な活性化がみられます。

起立性調節障害と自律神経

目次

1.起立性調節障害とは

起立性調節障害とは、自律神経系の異常によって起きる障害です。とくに小学校高学年~中学生の第二次性徴期という、身体の様々な機能が大きく変化する時期に起きやすいと言われています。 

これまでは成長の過程として考えられていましたが、近年は重症の起立性調節障害では、上半身や脳への血流低下が障害されて、不登校やひきこもりを引き起こす原因になると分かっています。思春期で心身症と診断された7割ほどが、起立性調節障害だと言われており、発症の頻度が高い病気です。 

「朝、なかなか起きられない」という自分の意思ではどうにもならないような病気であるにもかかわらず、親から「怠けている!」と思われることで子どもは辛い毎日を送り、悩み続けてしまうのでしょう。よって、起立性調節障害は保護者の方が病気への理解を深めることが大切な病気であり、今後の社会生活のためにはしっかりとサポートする必要があります。

2.起立性調節障害と自律神経の関係

起立性調節障害は、自律神経の調節機能が乱れることで起こります。

自律神経は自分の意思でコントロールできないもので、身体や心のさまざまな機能を調節しています。自律神経には、交感神経や副交感神経があり、主に朝の活発な時間帯は交感神経が優位になり、夜は副交感神経が優位になるよう仕組みができています。 

自律神経の主な働きは、次のとおりです。

交感神経=活動させる状態に

脳の血管が収縮する、瞳孔が開く、唾液が減る、胃腸は抑制される、心拍数が増える、汗が出るなど

副交感神経=休める状態に

脳の血管が拡張される、瞳孔は閉じる、唾液が増える、胃腸は活発に働く、心拍数減少など

 交感神経はストレスの影響を大きく受けやすく、ストレスを受けている状態が長く続くと、副交感神経よりも交感神経が活発となり体調不良を引き起こす原因になると考えられています。

 起立性調節障害は、脳の自律神経系の機能が悪くなることで、交感神経と副交感神経のバランスが崩れます。全身の血流を調節している自律神経の不調が起きると、起立時に心臓より上部の血液が不足し、下部では血液がたまりさまざまな症状を引き起こします。

3.どのような症状か

起立性調節障害は、起立時にめまい、動悸、失神などの症状が起きる自律神経の機能が悪くなる病気です。主な身体症状は、次のとおりです。 

  • 立ちくらみ、めまい
  • 立位時に吐き気、倒れる
  • 少しの動きで動悸や息切れ
  • 朝起きられない
  • 午前中の調子が悪く、午後に良くなる
  • 顔色が青白い
  • 食欲不振
  • イライラ
  • 疲れやすい、倦怠感
  • 頭痛や腹痛
  • 手足の冷え
  • 夜に目がさえて眠れない、昼夜逆転
  • 集中力や思考力の低下
  • 乗り物酔いしやすい  

さまざまな身体症状や精神症状から、学校の生活や日常生活に問題を来します。適切な治療を行わなければ、学習障害や睡眠障害、生活活動の低下などを起こし、今後の子どもの成長に悪い影響を与えてしまうでしょう。

これらの症状は健常な子どもでも自覚する病気であり、親へ訴えたり生活に支障を来したりしている場合は、小児科を受診することが大切です。 

4.起立性調節障害になりやすい人

起立性調節障害は、小学校高学年~中学生の思春期に起きやすい病気であり、自律神経系の調節機能がうまくいかないことが原因とされています。起立性調節障害になりやすい人や不調を来しやすい環境は、次のとおりです。 

  • 小学校高学年~中学生
  • 真面目な子ども
  • 周囲の期待に応えるために頑張る子ども
  • 季節や気候の変化
  • 生活リズムの乱れ
  • 心理社会的ストレス
  • 学校における人間関係の変化
  • 急激な身体の成長の変化
  • 心身に現れる症状に気持ちが負けてしまう 

とくに、学校生活や家庭生活における心理社会的ストレスの影響を受けやすく、ストレスが強くなると症状が強まり、ストレスが軽くなると症状が軽くなります。 

起立性調節障害の症状が出ることで、子どもは「身体が辛いのに、学校に行かなければいけない」という気持ちを抱いてしまい、さらに病状を悪化させるという悪循環をもたらします。 

5.起立性調節障害の診断・治療

①起立性調節障害の診断

受診される際は、身体的な不調を感じた場合がほとんどでしょう。診断には、起立性調節障害にともなう問診や診察、血液検査を行います。 

思春期の子どもが起きやすい、鉄欠乏性貧血や内分泌系の病気など別の病気であることを除外するための検査を行い、起立性調節障害かどうかをしっかりと見極めていきます。 

問診では、起立性調節障害による症状や強さがどの程度かを聞き取ります。他の病気ではないと診断した後、起立性調節障害がどのようなタイプかを確認します。その際に新起立試験といって、10分間安静の状態で横になった後に起立し、心拍数や血圧の変化を測定する検査を行います。起立性調節障害のタイプは、次の4つです。 

  1. 起立直後性低血圧(起立直後に血圧低下が起こる、回復に時間がかかる)
  2. 体位性頻脈症候群(起立後の血圧低下はない、心拍数が異常に増加する)
  3. 血管瞑迷走神経性失神(起立中に急激な血圧低下が起こる、失神する)
  4. 遷延性起立性低血圧(起立中に徐々に血圧低下が進む、失神する)

 この4つのタイプの中で、どのタイプに当てはまるかを判定します。その上で、重症度や心理社会的な要因がどのくらい影響しているのか、しっかり評価して治療の計画を立てていきます。 

②起立性調節障害の治療

起立性調節障害は、症状が軽い場合は日常生活の工夫でコントロールし、症状が重い場合は内服治療を行うことになります。また、治療法は重症度だけではなく、心理社会的要因の程度によってさまざまな方法を組み合わせて行います。 

まずは保護者や学校関係者の方々が、この病気の特徴について理解を深めることが最重要です。病気への理解が乏しい場合、子どもに対して「怠けている」「ただの学校嫌い」「スマホが原因で夜更かししているせい」などと考え、朝無理やり起こして学校に行かせようとします。このような間違った対応により、さらに症状を悪化させてしまうことを防ぎます。そのため、保護者や学校関係者は「起立性調節障害は病気、気持ちでは治らない」と理解すべきです。 

その上で、症状が軽い場合は規則正しい生活を心がけ、循環血液量を増やして脳への血流を促すために十分な水分と塩分を摂るようにしましょう。また心臓へ戻る血液量を増やすため、積極的に運動をすることも効果が期待できます。 

このような日常生活を整えることを第一に考え、薬物治療を併用します。適切な治療を行うことで、2~3ヵ月で症状が改善されるでしょう。

6.起立性調節障害との向き合い方と予防

起立性調節障害との向き合い方や予防は、まずは精神的なストレスを軽減し、コントロールできることが大切です。午前中の症状が辛い場合は午後から登校できるよう調整をし、無理のない範囲で学校生活を送れるようにします。 

そして、日常生活において出来ることから始めてみましょう。具体的には次のとおりです。

  • 座っている状態や寝ている状態から起立する時は、頭を下げて立ち上がる
  • 急に立ち上がらず、30秒以上かけてゆっくりと立ち上がる
  • 1~2分以上、立ちっぱなしではいない
  • 立っている必要がある時は、足を動かしたりクロスさせたりする
  • 水分は1日1.5L~2.0L、塩分は1日10g摂る
  • 早めの就寝を心がける
  • 朝食をしっかり摂る
  • 日中は身体を横にせず、できるかぎり上半身をあげる
  • 暑い場所は避ける
  • 弾性ストッキングを着用し、下半身への血流貯留を伏せず

子どもの起立性調節障害は、ストレスが大敵です。症状があり学校に行けない子どもに対して、頑張っていることを評価してあげて負担をかけないよう周囲の協力が重要になる病気です。保護者は日常生活の工夫をし、日々の症状と上手に付き合いながら安心した生活が送られるよう、サポートしてあげましょう。