ADHD 周囲の対応・教育環境column

Update:2021.01.06

ADHD 周囲の対応・教育環境

目次

周囲の対応

ADHDの子は、思春期に「非行に走りやすい」って本当?

自分の行動を理解してもらえずに苦しんでいるADHDの子は、思春期になると、その気持ちを他人や社会に向けてしまうことがあります。 アメリカではADHDの子どものうち、約30%が思春期以降、非行(行為障害)に走るといわれています。

しかし、日本とアメリカでは社会構造が異なり、非行の発生率にも格段の差があります。 非行の多いアメリカでのデータをそのまま日本に当てはめることはできませんが、ADHDと非行との関わりは日本でも問題点として指摘されています。 ADHDの子が非行に走るのは、衝動的な行動が原因で邪魔者扱いされたり、叱られたりすることによって、自分が認めてもらえなかった場合に、人に対する信頼感が持てなくなることが原因だと考えられています。 そのやり場のない怒りを他人にぶつけたりします。

子どもを叱責するばかりでは、かえって状況を悪化させてしまいます。 行動の背後にADHDがあるということをよく理解したうえで、子どもの自尊心の発達に常に目を向けることが大切です。


家庭、保育園、幼稚園、学校、「それぞれの場所」でどう対応したらいい?

ADHDの子どもが感じるストレスは、環境によって異なります。
行動の背景を見て、対応することが大切です。

ADHDの子どもの場合、より注意深く様子を見守ることが大切です。 なぜなら、その行動には、必ず理由があるからです。 衝動的な行動だけに目をうばわれて叱ってばかりいると、子どもを追い詰めて事態を悪化させる要因となることもあります。 家庭や集団生活の場では、行動の背景を見てそれぞれに対応することが必要です。

厳しく規律を求められる場所では、ADHDの子のストレスは強くなり、行動もより目立ちやすくなります。 そういった状況で叱責されることが続くと、子どもの自尊心がうまく育たなくなり、その後の社会適応が困難になります。 小さい頃からの家庭や集団生活での対応は、子どもの将来を大きく左右します。

はじめからあまり高い八-ドルを設けず、たとえ小さなことでも、うまくできたことをほめてあげましよう。


病院以外にも「相談窓口」はあるの?

ADHDについては、学校や自治体などにも相談窓口があります。
しかし最終的には病院で診断してもらうことが必要でしょう。

ADHDについては、自治体の教育委員会や保健センターなどで、保護者向けに相談窓口を設置しているところがあります。 また、各学校に派遣されているスクールカウンセラーに相談することもできます。 スクールカウンセラーは、臨床心理士の資格を持つ人が多く、心理面も含めて助言や指導をしてくれます。 ただし、相談窓□やスクールカウンセラーにADHDの専門家がいるとは限らないのも事実です。 また、生活上のアドバイスはできても、医療行為は行えないため、診断を下したり、リタリンの投薬をすることなどはできません。

ADHDの治療は薬の服用が中心になるので、その意味では、最終的に病院で診断を受けるのがもっとも確実な方法といえるでしょう。 日常生活にストレスが多く、本人も親も苦しいという状況が続く場合は、学校の先生や保育士と相談したうえで、かかりつけの小児科医師や専門病院を受診するとよいでしょう。


子ども自身にも、年齢に応じて障害のことを「説明」してあげる

「子どもに話してもわからない」。
そのように決めつけず、本人にわかる言葉でADHDのことを説明してあげましょう。

ADHDの子どもは、「友だちとトラブルが多い」「人と違う行動をとってしまう」「人の話を理解することが難しい」といった自身の状態に、悩んでいることが多いのです。 トラブルについて年中責められたり、まわりから白い目で見られることに、子どもは傷ついているのです。 そして、そんな行動をとってしまうのは、「自分自身が悪いから」と思い込んでいることもめずらしくありません。

自分自身をコントロールできないのは自分が悪いからではない、ということがわかったら、子どもの気持ちはどれだけ救われることでしょう。 「病気」や「障害」という言葉は使わずに、年齢に応じてわかる言葉で説明しましょう。

「ほかの子より落ち着さがなくて、忘れ物が多い性格なんだ」「気をつけることで、ほかの子と同じように落ち着いて暮らすことができるんだ」ということをまずはしっかり伝えて、子どもを安心させてあげましょう。


不注意でケガが多い・「事故」を避けるためには?

ADHDの子は注意力を持続できないため、ケガをしやすい面があります。
できるだけ事故にあいにくい環境を整えてあげましょう。

アメリカで行われた調査では、ADHDの子は事故にあいやすいということが報告されています。 さらに、歩いているときにケガをすることが多いことや、ケガをした場合にADHDではない子に比べて、その程度が重いということもわかっています。 実際、突然道路へ飛び出したり、遊具などから転落するケースもありますので十分な注意が必要です。 保護者が一緒のときは、なるべく目を離さないようにするのが事故を防ぐうえでとても重要です。

また、子どもの行動を制限するのは難しいので、大人がケガをしにくい環境を整えることも大切です。 飛び降りる危険性のある場所に柵を設けたり、家具の角にクッション材を取り付けるといった工夫で、ケガをする率は少なくなります。 バリアフリーの専門家に相談したり、市販の事故防止グッズなどを活用して対応するとよいでしょう。

「外出先で騒ぎ出す」そのとき、どう対処する?

ADHDの衝動性は、周囲にはいわゆる「キレる」という見え方であらわれることがあります。
そんなときには、冷静に対処することが大切です。

ADHDの子は気持ちの変動に伴って、自分の衝動が抑えられなくなり、大声を出したり、突然走り出したりしてしまうことがあります。 外出先でこのような状態になると、周囲の目もあって、親としてはいたたまれなくなってしまうでしょう。 しかし、ADHDの子は何の理由もなく、衝動的な行動をとることはありません。 なぜ、そのような行動をとったのかをよく見てあげることが大切です。

子どもがこういった行動をとったときに、感情的になったり力ずくで従わせようとすると、よけいに反発してしまいます。 子どもと競うように大声を出すことはやめ、できるだけ落ち着いたトーンで話しかけ、興奮を鎮める方向に持っていきます。 レストランや店の中などで騒ぎ出したときにはひとまず場所を移動して、気分を変えさせましょう。 また行動療法の手法を用いて、できるだけ冷静に対処することが大切です。


言うことを聞かないので、親もついつい「手をあげて」しまう

子どもの行動が原因で、親のほうもイライラしてしまうことがあるかもしれません。
しかし、イライラの原因は子ども本人ではなく、その子の「ADHD」なのです。

ADHDによる子どもの行動が、親のストレスの要因になるのは確かです。 しかし、子どもに手をあげても何の解決にもなりません。 ADHDの子は、衝動的な行動が原因で叱られたり嫌がられたりすることが多いため、自己否定感や疎外感を募らせ、傷つきやすくなります。 学校でつらい思いをして、家に帰ってから親に叩かれてしまっては、子どもの安心できる場所がなくなってしまいます。 また、叩かれることで子どもの自尊心はとても傷つきます。

長い目で見ると、自尊心が育たないことは子どもの将来に多大な影響をもたらします。 自尊心が育たないと対人関係がうまく築けなくなり、二次的に行為障害(非行)を引き起こす誘因ともなります。 カッとなって手をあげてしまうのは、親自身、自分を抑えられないことに原因があるのかもしれません。 冷静になって、自分の行動を振り返ってみることも必要です。


ほかの「兄弟」への配慮は、どのようにすればよい?

ADHDの子がいる兄弟は、少なからずその影響を受けます。
親としては大変な面もありますが、ほかの兄弟への配慮はとても重要です。

家庭内にADHDの子がいる場合、親はどうしてもそちらに手がかかり、ほかの兄弟はがまんすることが多くなってしまいます。 同時に「親は全然自分のことを見てくれない」と孤独感を募らせて、気持ちが不安定になることがあります。

ADHDのことを理解してもらうことも大切ですが、時にはほかの兄弟にも思いっきり甘えられる状況を作ってあげてはいかがでしょうか。 「あなたのことも十分に愛している」という気持ちが伝わっていれば、どうしてがまんしなければならないのかをちゃんとわかってくれます。

また、親やADHDの子の苦しみを目の当たりにして、ほかの兄弟が助けてあげようというやさしい気持ちが芽生えるケースもたくさんあります。 家庭内できちんと話し合い、ほかの兄弟にもできる範囲で手助けを頼むとよいでしょう。 親はすべての子に十分な愛情を示し、兄弟のいるメリットを生かす方向に持っていくべきです。


「共働き」が原因?今すぐ仕事はやめたほうがよい?

ADHDの症状は、親が共働きをしていることが原因であらわれるわけではありません。
夫婦間で、治療方法などへの共通認識を持つことが大切です。

共働きの場合、働いている時間は夫婦ともに、ADHDの子どもを見てあげることができません。 しかし、そのことが原因でADHDの症状があらわれるわけではありません。 ADHDの症状というのは、あくまで生まれつきのものです。

ただし、親の対応によっては、子どもが感じるストレスは大きく異なります。 母親の理解は進んでいるのに、父親はADHDに関心や理解を持っていないというような場合、その対応には差が生じるため、子どもはとても混乱してしまいます。 つまり、共働きをしているかどうかよりも、夫婦間でADHDに対する協力態勢がきちんとできているかどうかが大切なことなのです。

共働きをしていても、帰宅後一緒に過ごす時間の中で、ADHDへの理解を深めることはできるはずです。 夫婦間で生活環境や子どもへの接し方、治療方法などをよく話し合い、お互いに助け合いながら対処していくことが大切です。


「近所の人」や「親戚」には、どんなふうに説明すればよい?

ADHDのことをよく知らない人から見ると、その行動は非常識に感じられることもあるでしょう。
偏見を受けないよう、うまく説明することも大事です。

近所の人や親戚が大勢集まる場は、集会や葬式、結婚式など、いわゆる「静かにしていなければならない場面」であることが多いものです。 そういった場面で、騒ぎ出したりまわりの子にちょっかいを出したりすると、「親はいったいどんなしつけをしているんだ」と、眉をひそめられてしまうこともあります。 そんなとき、いきなり「この子はADHDという障害を持っているんです」と説明するのは、よい方法とはいえません。 知らない人にとっては「親の責任逃れ」ととられてしまいますし、見当違いな偏見を持たれてしまうこともあります。

ADHDの概念を詳しく説明するよりも、「子ども特有の性質が、極端にあらわれてしまうたちなのだ」といった説明にとどめておいたほうがよいでしょう。 ADHDについて多少の知識を持っている人がいたら、子どもの3~5%に見られるもので、決してめずらしい障害ではないことを強調しておくとよいでしょう。


友だちに「ケガ」を負わせてしまったとき、どうすればよい?

ADHDの子は、その衝動的な行動から、時には友だちを傷つけてしまうこともあります。
そんなとき、親はどのように対処するのが適切なのでしょう。

自分の衝動を抑えることのできないADHDの子は、ケンカして友だちに手をあげたり、殴ってしまったりすることがあります。 ADHDの子は通常、理由もなくそのような行動に出ることはありませんが、手を出したことに対しては、厳しく叱るべきです。 そして、万が一相手にケガを負わせてしまったときには、まずは親子ともども誠意をもって謝罪することが大前提になります。

相手はケガを負わされて、大変ショックな状態にあるはずです。 こんなときには「ADHDだから理解してください」と言っても、なかなかわかってもらえないものです。 逆にADHDに対して、悪い印象を持たれる可能性のほうが高いかもしれません。 その場ではADHDには触れず、「ケガを負わせたこと」に対してきちんと謝りましよう。 そのうえで、障害については、折を見て説明したほうがよいといえます。

教育環境

持ち物や宿題など「忘れ物」が多い場合にはどうすればよい?

ADHDの子は「忘れ物」が多く、授業に影響が出て困ってしまうこともよくあります。
忘れ物を少なくするためには、周囲の手助けが必要です。

ADHDの子は一度にたくさんのことを言われても、すべてを覚えていることができません。 そのため、忘れ物が多くなりがちです。 面倒でも、学校への持ち物は親が確認しながら用意させるようにしましょう。

先生や友だちにも協力してもらい、明日持っていくものをノートにとらせたり、帰りに念を押すなどしてもらうとよいでしょう。 絵に描いて、チェックシートを作るのもひとつの方法です。 筆箱やハンカチなど、毎日必ず持っていくものは、あらかじめひとまとめにしておきましょう。 また、宿題はひとりでやっていると気が散ってしまうことが多いので、できるだけ親がそばにいて見守るようにします。 忘れたことを叱るより、忘れなかったときにほめるほうが子どもの達成感が高まり、忘れ物を少なくしていくうえで効果的です。


極端な「勉強ぎらい」をフォローするにはどうすればよい?

ADHDの子はその行動特性から本来の力が出し切れず、学校の授業についていくことが困難です。
学校側とよく相談するなど、学習環境を整えましょう。

ADHDの子は、先生の話を最後まで集中して聞くことができないため、学習が進みにくいという特徴があります。 さらにLDを合併していると、ほかの子どもたちと同じペースで学習していくことは困難です。 そのような場合は、先生に相談して、学校での教え方を工夫してもらうことが大事です。

ADHDの子は集中していられる時間が短いため、単元を細かく分け、ポイントを絞って教えるのが効果的です。 ADHDの子に合った教材の選択や授業の進め方を学校側とよく相談し、必要であれば補習をしてもらいましよう。 また、塾や家庭教師を活用するのもひとつの方法です。

塾を選ぶ場合は、周囲に人がたくさんいるとどうしても気が散ってしまうので、一対一の個人指導をしてくれるところが望ましいといえます。 その意味では家庭教師に自宅に来てもらい、落ち着いた環境でじっくり教わるのもよい方法です。


ADHDの子は「LD(学習障害)」を合併することが多いの?

ADHDの子は、LD(学習障害)を合併しやすいという特徴があります。
また、授業内容の理解が困難で、学校生活に支障をきたすことがあります。

ADHDは、さまざまな精神疾患を合併することがあります。 その中でも特に多いのがLDとの合併です。 LDは日本では「学習障害」といわれています。

文部科学省では「読字障害(文章を読むことが困難)」「書字障害(文字を書くことが困難)」「算数障害(算数を理解できない)」の3つに加えて、推論すること、聞くこと、話すことに障害があるものを「学習障害」と定義しています。 文章を読んでその意味を読み取ったり、人のしゃべっている内容を理解することに困難を感じるのがLDの大きな特徴です。

また、算数だけがどうしても理解できないというLDもあります。 教科書を読んで先生の話を聞くという現在の学校教育の中で、LDの子が非常に苦しい思いをしていることは想像に難くありません。


ADHDの子は「特別支援学級」に通うことになるの?

学校によっては、知的障害児などのために「特別支援学級」を設けているところもあります。
しかし、ADHDの子は普通学級への在籍が基本です。

「特別支援学級」は、かつては「特殊学級」とよばれ、もともと知的障害児や肢体不自由児、視覚障害児、聴覚障害児、病弱児などのために設置されたものです。 特殊学級が始まった頃は、ADHDやLDといった発達障害がそれほど一般に認知されていなかったため、発達障害の子が入るというケースは想定されていませんでした。

現在は、自閉症や高機能自閉症(知的障害のない自閉症)の子どもが、特別支援学級で学ぶケースが見られます。 特別支援学級は比較的人数が少なく、きめこまかい指導ができるという点で、ADHDの子に向いていると考える人もいるかもしれませんが、知的障害のないADHDの子は特別支援学級に通う必要はありません。 学校側の体制にもよりますが、普通学級に副担任を置いて、ADHDの子どもを注意深く見守るという取り組みをしているところもあります。

ADHDの子どもは「進学」や「就職」はできる?

その行動の特性から、学習に困難が生じやすいADHDの子。
しかし、多くの患者さんがそれを乗り越えて、進学や就職を果たしています。

ADHDの子どもには知的障害がないので、学習課題を理解する力そのものは十分に持っています。 しかし、学校の授業のような精神的緊張を覚える状況の中で、先生の話を最後まで集中して聞くことができないことがあります。 また、順序立てて物事を覚えていったり、推論することが苦手なため、本来持っている実力を十分発揮することができません。 結束としてテストでよい点をとることができず、勉強に遅れが生じることになってしまいます。 また、多動・衝動的な行動特性が原因で周囲と衝突することも多く、集団生活の場に置かれることが、心理的負担になってしまう場合もあります。 しかし、ADHDだからといって進学や就職をあきらめなくてはならない、というようなことは決してありません。 私の患者さんのほとんどは、進学や就職をしています。


「先生」や「クラスの保護者」には、どう話せば理解してもらえるの?

担任の先生には、ADHDであることをきちんと伝えましょう。
クラスの保護者には、資料などを示して説明するとわかりやすいはずです。

近年、学校教育の現場では、ADHDに対する理解が浸透しつつあります。 担任の先生にはきちんと診断名を伝え、授業の進め方や集中しやすい環境作りについて、子どもに合った対応をとってもらうようにしましよう。 基本的に、クラスの子どもたちやその保護者への症状の説明は、学校側が行うものです。

しかし、ADHDという言葉は知っていても、個別の対処法までは知らない先生が多いのが現実です。 このまま説明が不十分だと、ほかの保護者から「親のしつけが悪いのではないか」と非難されてしまうことも考えられます。 そんなときには、ADHDはアメリカでは一般的に知られている発達障害で、決してめずらしいものではないこと、本人や親も治療方針に沿って努力していること、周囲の人たちの協力と理解で症状は改善されることなどを中心に説明しましょう。 関連書を提示しながら説明すると、より理解が得られるはずです。


ADHDの子どもが「学級崩壊」を引き起こすわけではない

先生がいるにもかかわらず、子どもたちが騒いで授業が成り立たない「学級崩壊」。
その原因は、ADHDの子どもだけにあるわけではありません。

「学級崩壊」のクラスでは、誰もが先生の言うことを聞かず、授業中でも勝手に歩きまわったり友だち同士で遊んだりしています。 今も昔も、ADHDの子どもの数はさほど変わりありません。 学級崩壊の原因は、ADHDの子だけでなく、それを取り巻く周囲の子どもたちにも問題が起きていると考えることもできるのです。

「個性を尊重する」ことと「がまんしなくていい」ことは違います。 しかし「自由な教育」と「自分の好き勝手に行動してもいい」ことを、はき違えている親や子どもが増えてきています。 昔は、教室内で見られるADHD特有の行動を、「いけないことだ」と見る雰囲気があったはずです。 しかし、今の子どもたちは「じゃあ、自分もがまんしなくていいんだ」というふうに考えてしまいがちなのでしょう。 ADHDの子ばかりでなく、周囲の行動にも、目を向けるべきでしょう。