カサンドラ症候群column

Update:2023.10.15

カサンドラ症候群とは

パートナーあるいは家族など身近にいる人が自閉スペクトラム症(ASD)のため、適切な意思疎通や関係性を築けない心的ストレスから、不安障害や抑うつ状態といった症状が起きている状態を指す言葉です。「当人の苦しみがパートナーや周囲の人に理解されず、孤立した状態に置かれること」がカサンドラ症候群の大きな原因であると考えられています。

カサンドラ症候群

目次

1.カサンドラ症候群とは

カサンドラ症候群とは、パートナーや家族などが発達障害の一つであるアスペルガー症候群(ASD)のために、コミュニケーションや情緒的な相互関係を築くことが難しく、アスペルガー症候群の人の身近にいる人に不安や抑うつなどの心身の不調を来す状態のことを言います。特に、カサンドラ症候群の夫とそれを支える妻といったパートナー関係内で起こる場合が多いと言われています。

カサンドラ症候群は、アスペルガー症候群の夫やパートナーへの報われない支援の日々から精神的苦痛が大きくなり、本人自体が心身ともに健康でいられなくなってしまう状態になります。コミュニケーションがうまくとれず、配偶者のストレスや不安、不満が強くなってしまいます。

2003年に心理学者がカサンドラ症候群と名付けていますが、障害名としては確立していません。そのため、診断名としてのカサンドラ症候群ではなく、「状態」として捉えることになります。

また、アスペルガー症候群を受けていないとしても、アスペルガー症候群の傾向を持っているグレーゾーンのパートナーでも起こり得る状態だと考えられています。

カサンドラ症候群は正式な病名ではないため、なかなか周囲の人に苦悩を訴えても理解されないことが多いです。リモート会議が増えた現代においても、家庭内にストレスが持ち込まれた結果、心身に不調を来すパートナーが増えているとも言われており、夫婦間や職場内で大きな問題とされています。

2.カサンドラ症候群の原因

カサンドラ症候群は、アスペルガー症候群をもつ相手との関係性から生じるため、多方面の様々な原因やきっかけがあります。ただ、どのカサンドラ症候群でも共通しているのは、次のようなことです。

  • アスペルガー症候群のある家族やパートナー、上司などとの情緒的交流の乏しさから、関係性が悪化している状態
  • その事実をパートナーも周囲も理解せず、本人だけが苦しみを抱えたまま孤立した状態で生活していること

カサンドラ症候群を引き起こす、アスペルガー症候群には主に3つの症状があります。それは、「コミュニケーションの問題」「対人関係の問題」「限定された物事へのこだわり、興味」の3つです。

 

特徴

コミュニケーションの問題

  • 表面上は問題なく会話できるが、その会話の裏側や行間を読むことが苦手
  • 明確な言葉がないと理解が難しい
  • 比喩表現をそのままの意味で鵜呑みにする
  • 人の言葉を勘違いしやすい
  • 傷つきやすい
  • 曖昧な表現が苦手で、不適切な表現を使う

対人関係の問題

  • 場の空気を読むことが難しい
  • 相手の気持ちを理解したり、寄り添った言動が苦手
  • 社会的なルールやその場の雰囲気を察せない言動
  • 対人関係をうまく築けない
  • 相手を傷つけたり、自己中心的と思われる言動や行動をする

限定された物事へのこだわり、興味

  • いったん興味を持つと過剰なほど熱中する
  • 法則性や規則性のあるものを好む
  • 異常なほどのこだわりがある
  • 法則や規則が崩れることを極端に嫌う傾向
  • 自分のルールがある
  • 興味のあることに対して話し続ける

アスペルガー症候群の相手は、苦しみや孤独感を理解できず、さらに周囲がそのパートナー間の問題を認識しにくいことがあります。そのため、カサンドラ症候群の原因は隠れてしまい、周囲からは見えにくい状態になっています。

また、アスペルガー症候群であるパートナーが、大きなトラブルもなく一定以上の社会適応性を身につけている場合は、職場などの外向きの環境では問題なくうまく対応できるかもしれません。しかし、家庭内や身近な人とプライベートな時間を共有している中では、関係性が悪化しているという場合があります。この状況では、外部からは家庭内の状況や当人の悩みや辛さには気付くことが難しいでしょう。

そのため、当事者がカサンドラ症候群でつらい思いをしていると周りに訴えても、問題を軽視されたり批判されたりといった状況にもなり得るのです。周囲の理解の難しさから、より孤独感に駆られてしまいストレスをため込んでしまうとされています。

3.カサンドラ症候群の症状とは

カサンドラ症候群が起きるのは、夫婦やパートナー、親子や兄弟、職場の上司などの親密な関係にある相手がアスペルガー症候群である場合に多く見られます。

さらに、カサンドラ症候群には次の要素があるとされています。

  1. 少なくともいずれかのパートナーに、アスペルガー症候群の特性などによる共感性や情緒的表現の障害がある
  2. パートナーとの関係において情緒的交流の乏しさを起因とした、激しい対立関係、精神または身体の虐待、人間関係の満足度の低下がある
  3. 精神的もしくは身体的な不調、症状(自己評価の低下、抑うつ状態、罪悪感、不安障害、不眠症、PTSD、体重の増減など)がある

カサンドラ症候群の症状には、身体的なもの・精神的なものがあります。アスペルガー症候群の症状の程度により、当事者に与える影響も変わってきます。そのため、人によってはちょっとした体調の変化で済む場合もあれば、日常生活を送ることが難しくなり医療機関を受診する、といった場合もあります。高いストレス状態に陥ってしまう場合もあり、治療が必要になるケースも少なくはありません。

カサンドラ症候群の代表的な症状には、次のようなものがあります。

  • 片頭痛
  • めまい
  • 体重の増加、減少
  • 自己評価の低下
  • パニック障害
  • 抑うつ
  • 無気力
  • 易疲労感
  • 自律神経失調症

このような症状が出ているのにもかかわらず、理解やサポートをしてくれる身近な人がいない状況が長期間続くことで、うつ病などの精神疾患を発症させる恐れもあるでしょう。

4.カサンドラ症候群になりやすい人とは

アスペルガー症候群などのASDの発現は、男性が女性の4倍ほど多いため、パートナーとなる女性側にカサンドラ症候群の発症割合が高くなると言われています。ただし、必ずしも女性だけがカサンドラ症候群になるわけではありません。パートナーや職場の上司などがアスペルガー症候群であり、その関係性で悩み苦しむ状態が続くのであれば、性別での差はないのです。

性格的に考えると、「真面目」「几帳面」「完璧主義」「忍耐強い」「面倒見がいい」といった性格の人がカサンドラ症候群になりやすいと言われています。発達障害やグレーゾーンのパートナーや上司に対して、真正面に向き合うことで、情緒的交流が難しいと悩み、それでも我慢してコミュニケーションを頑張ろうとする傾向があるからです。

しかし、アスペルガー症候群などのASDであるパートナーや上司が社会性に欠けた言動をみせたとしても、怒ったり避けたりせずに我慢し受け入れようとする忍耐強さが、少しずつ崩れてきます。そして、忍耐強さがうまく機能しなくなり、パートナーや上司との関係性が偏ったものに固定され、カサンドラ症候群へ進行するとされています。

カサンドラ症候群が起きる具体的な関係性としては、アスペルガー症候群などのASDのある人と親密な関係で、より多くの時間を共に過ごす人に見られます。

  • 夫婦や恋人などのパートナー関係
  • 親子、兄弟
  • 職場同僚、上司、部下などの日常的に関わることが多い関係

このような密接した関係の中で、カサンドラ症候群は発症すると言われています。

通常、アスペルガー症候群などのASDのある人が仕事などの緊張している状態から解き放たれることで、社会性を発揮しなくても問題のない環境である家庭内において、このような情緒的交流の欠如やコミュニケーションの問題などが見られる傾向にあります。

よって、職場などの社会的な場では問題なく過ごしている人であっても、家庭に帰るとパートナーとの対人関係がうまくいかず関係を壊してしまうという状況になります。

また、仕事においても同僚や上司、部下との間でも起こることがあります。パワーハラスメントやモラルハラスメントとして、問題になるケースが多くみられています。

5.カサンドラ症候群の治療・対処法とは

カサンドラ症候群に対する治療法としては、症状として現れているものへの対処療法が主流になります。片頭痛やめまい、自律神経失調症が現れている場合は、休息や薬物療法を行います。また、抑うつ症状や不安障害などが起きている場合は、適切な薬物療法と認知行動療法などを組み合わせて、症状の緩和に努めます。

あくまでも対処療法であるため、カサンドラ症候群を根本的に治すのであれば、アスペルガー症候群などのASDのあるパートナーとの関係性を改善したり変化させたりすることが最優先です。パートナーと一対一で孤立した状態を続けるのでは、どんなに薬物療法などの治療を行っても、根本的な解決にはなりません。

そのため、まずはパートナーと二人だけの問題として孤立しないこと、カサンドラ症候群のある人は周りに相談できる人をもつことが重要と言えるでしょう。

カサンドラ症候群とアスペルガー症候群などのASDのある人はどのように関わっていけば良いのか、カサンドラ症候群の症状に対する対処法などを具体的に紹介します。

①パートナーにASDの診断を強要しない

アスペルガー症候群などのASDのある人は、職場などの社会生活において適応している人が多く、中でもグレーゾーンの場合は自分がASDであるということに気付いていないということは、よくあることです。
そのようなパートナーに対して、「もしかしたら、あなたはアスペルガー症候群かもしれない」と無理に精神科などに受診させようと勧めると、本人のプライドなどから気持ちを傷つけてしまいます。その結果、さらに関係が悪化することにもなり得るでしょう。
もし、診断を確定させて適切な治療を受けさせたいという場合は、パートナーが自分自身の特性や症状について把握・理解し、納得した上で医療機関を受診するとよいでしょう。

②ASDの特性や適切な対応方法について知識を得る

アスペルガー症候群などのASDの特性について、書籍などで調べて知識を得るとよいでしょう。ASDではない人は、その障害を持つ人の行動や言動、気持ちなどは理解しにくいものです。
客観的にどのようなことが苦手で、どのような解釈をするのかなど、障害への理解を深めることで、パートナーに対して適切な対応ができるようになります。
ただ、その得た知識をもとに、正論や「こうであるべき」という知識の押し付けをしてしまうと、かえって反発されるという状況を招きます。パートナーに合った方法で対応しましょう。

③お互いの行動を理解し、生活上のルールを決める

障害の特性を持つ人とそうではない人では、その言動をする理由が異なる場合があります。お互いの行動の理由を伝え合い、相手の行動への理解を示します。
そして、お互いが納得いく生活上のルールを決めていくことで、相手を尊重して生活していけるでしょう。

④距離を置いたり関係性を変えたりする

パートナーと生活している環境を変えることも、改善する方法のきっかけとなるでしょう。環境を変える方法としては、別居や物理的な距離をとって関わる密度を減らす方法があります。
また、パートナーと一対一の関係性を続けるのではなく、間に第三者が介入することも方法の一つです。環境や関係性を変化させ、2人の間に社会性が介入することで、関係性が改善される場合もあるでしょう。

⑤発達障害者支援センターや精神科などの専門機関に相談

アスペルガー症候群などのASDであると理解しているパートナーであれば、一緒に専門機関に相談することで関係性の改善につながることがあります。また、カサンドラ症候群で悩む当事者だけで相談に行くという場合でも、パートナーのコミュニケーションや行動について理解できるきっかけとなる場合もあります。
また、カサンドラ症候群の当事者が集まる自助グループがあり、相談や共感を得られる同じ境遇の方たちと共に時間を過ごすことで、治療につながる場合もあるでしょう。