ボルチオキセチン(SERT)(商品名:トリンテリックス)についてcolumn

Update:2022.11.04

ボルチオキセチン(SERT)(商品名:トリンテリックス)について

目次

ボルチオキセチン(商品名:トリンテリックス)とは

 ボルチオキセチンはセロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節剤に分類される新規の抗うつ薬で、「トリンテリックス」という商品名で販売されています。

 ボルチオキセチンはデンマーク H. Lundbeck A/S により創製され、2013年に米国および欧州で承認され、2019年9月には日本でも「うつ病・うつ状態」の効能または効果で製造販売承認を取得しています。2021年12月時点においては日本を含む、世界80ヵ国以上で抗うつ薬として承認を取得しています。

 うつ病・うつ状態の患者では、個々によってお薬への反応性が異なり、複数の薬物治療を行っても症状が改善に至らないことが少なくありませんでした。また、古くから使われてきた三環系や四環系といわれるタイプの抗うつ薬は強力な効果がある反面、副作用も強いため治療を中断する患者が少なくないことも報告されています。

 しかし、ボルチオキセチンはセロトニン再取り込み阻害作用ならびにセロトニン受容体調節作用といった複数の薬理作用を併せもつ国内で承認を取得した初めてかつ唯一の製剤であり、副作用を起こす頻度が低く、それでいて治療効果も三環系や四環系と同程度なので患者さんにとって使いやすく、継続しやすいお薬になっています。

ボルチオキセチンの作用について

 うつ病・うつ状態においては、ノルアドレナリン、ドパミン、アセチルコリン、ヒスタミンなどの脳内神経伝達物質不足が関与しているといわれています。

脳内の細胞から細胞への情報伝達はバケツリレーのように神経伝達物質をやりとりすることで行っています。しかし、うつ病の患者さんはこの神経伝達物質が減少してしまい、情報がスムーズに伝わらなくなっています。セロトニンやノルアドレナリンなどの脳内神経伝達物質は意欲や活力を伝える働きをしているため、この伝達がスムーズにいかないとうつ病の症状があらわれます。

ボルチオキセチンは複数のセロトニン(5-HT)受容体への作用とセロトニントランスポーター(SERT)阻害作用を有しています。それによって、セロトニン系、ノルアドレナリン系およびドパミン系などの複数の神経伝達系に影響をあたえ、脳内神経伝達物質のバランスを整えることができます。ただし、ボルチオキセチンは他の抗うつ薬同様、飲み始めてすぐには抗うつ作用は得られません。飲み続けることで脳に少しずつ作用し、脳内の神経伝達がスムーズになって抑うつ気分や不安をやわらげることができます。

ボルチオキセチンの服用方法について

ボルチオキセチンの服用方法については以下の通りです。

通常、成人は1回ボルチオキセチンとして10mgを1日1回服用します。症状により、1日20mgを超えない範囲で適宜増減できますが、増量する際は1週間以上の間隔をあけて行います。

ボルチオキセチンの注意点について

国内臨床試験及び国際共同試験において、1,050例(うち日本人708例)中、499例(47.5%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。その主なものは以下の通りです。

消化器症状

  • 悪心(嘔吐前のむかつき):0%
  • 下痢:1%
  • 便秘:9%
  • 嘔吐:8%

精神神経系

  • 傾眠(眠気):0%
  • 頭痛:7%
  • 浮動性めまい(体がふわふわする感じ):3%
  • 不眠症:2%

皮膚症状

  • そう痒・全身性そう痒:1〜10%未満
  • 蕁麻疹・発疹:1〜10%未満

全身症状

  • 倦怠感:1〜10%未満

また、うつ病により気持ちが不安定な状態でボルチオキセチンなどの抗うつ薬を飲むと、死にたいと考える自殺念慮や、実際に自殺を企てることを自殺企図のリスクが逆に高くなることがあるといわれています。特に飲みはじめや飲む量を変更した時に、不安感が強くなり死にたいと思うなど症状が悪くなることがあります。24歳以下の患者ではリスクが増加しやすいといわれているので注意が必要です。

急に使用を中止した場合にも、不安になる、いらいらする、あせる、興奮しやすくなる、めまい、感覚の異常、頭痛、吐き気などの症状があらわれることがあります。そのため、ボルチオキセチンの使用を中止する場合は、時間をかけて、少しずつ量を減らしていきます。

服用できない/注意が必要な患者さん

以下の患者さんはボルチオキセチンを服用することができません。

  • 過去にボルチオキセチンを服用してアレルギー症状を起こしたことがある方
  • モノアミン酸化酵素阻害剤(セレギリン塩酸塩、ラサギリンメシル酸塩およびサフィナミドメシル酸塩)を投与中または投与中止後14日間以内の方

MAO阻害剤といわれるモノアミン酸化酵素阻害剤とボルチオキセチンを一緒に服用すると、セロトニンの分解が阻害され脳内セロトニン濃度が異常に高まってしまい、セロトニン症候群という副作用を起こすおそれがあります。急に精神的に落ち着かなくなる、体が震える、汗が出る、脈が速くなる、発熱、筋肉がこわばる、手足がぴくつくなどの症状があらわれます。

また、ボルチオキセチンを服用している間は眠気、めまいなどがあらわれることがあるため、自動車の運転など危険を伴う機械を操作する際には注意する必要があります。もし、これらの症状を自覚した場合には、すみやかに機械の操作を中断してください。