チック・吃音とは
チックや吃音は、幼児期から小児期に発症する顕在化しにくい発達障害と言われています。子どもに多い症状ではありますが、大人でもチック・吃音で悩む方は多くいるでしょう。ここでは、それぞれの概要について詳しくお話します。
チックとは
チックとは、急に出現する不随意な「運動」や「音声」が繰り返す障害のことを言います。意図的なものではなく、やるつもりがなくても「運動」や「音声」をやってしまうものです。軽いものであれば意思により抑制することも可能ですが、抑制を続けると反動で一時的に症状が激しくなることもあります。
特に就学前後の5~6歳ころに、「単純運動チック」で発症することが多く、その後は症状が自然に強くなったり弱くなったりと波があります。多くは1年以内に症状が消失する、一過性チック障害とされています。
慢性化しているチックは、思春期ころに症状が最も強くなることが多いです。しかし、大人になるにつれてほとんどの方は症状が消失する、改善すると言われています。
吃音とは
吃音とは、「どもる」「なめらかに話すことができない状態」のことで吃音症、小児期発症流暢障害とも呼ばれます。100人のうち約5~8人の発症率であり、ほとんどが幼児期に発症するものです。およそ95%の人が4歳までに症状が現れます。自然に治る場合もありますが、大人になっても吃音の症状が続いている場合もあります。
吃音には個人差はありますが、発現しやすい場面があります。たとえば、苦手な行の言葉を発しなくてはいけない時や周りの目を気にし過ぎる、不安な状況、どもらないように吃音を意識し過ぎたときなどです。
吃音がある人は、「さ行」や「い段」が苦手など特定な音や言葉が苦手である人がいます。また、吃音を周りの人から笑われたりからかわれたりした経験があると、周りの目を気にしてしまい言葉を発することが怖くなります。緊張や不安、意識をし過ぎることで、吃音が現れやすくなるのです。
チック・吃音が起きる要因とは
チックや吃音が起きる要因は、それぞれ明確に分かってはいないというのが現状です。しかし、それぞれ可能性として考えられることがあります。
ここでは、チックや吃音が起きる要因について詳しく紹介します。
チックが起きる要因とは
チックが起きる要因は、はっきりと分かっていません。リラックスできる家庭内での発症が多く、注意欠陥多動性障害や強迫性障害に合併して起きることがあります。他に、脳の中にある大脳基底核という部分が関係しているとも言われています。
発熱、疲労、緊張やストレスなどで症状が悪化することもあります。
吃音が起きる要因とは
吃音が起きる原因のほとんどは、その子の性質であり生まれもった体質であると言われています。保護者の育て方が原因ではありません。
吃音がある子どもは、他の子どもと比較して言語発達が良い傾向があります。知っている言葉の数が多く、次の文章を考えながら話しており、頭の中に出てくる言葉や文章に対して口がついてこれないことが原因となります。
吃音のある子の半数以上は、小学生になるまでに治るのですが、10代後半や社会人になってから発症する方も稀にいます。吃音が長く続く可能性があるのは、「男児」「家族に吃音のある人がいる」「発症から3年経っても吃音が続いている」といった場合です。
また、疾患や心的ストレスによって発症する吃音もあります。様々な要因が子ども自身の発達に影響されて、吃音が現れると言われています。
チック・吃音の症状・特徴
チックの症状や特徴
チックは、リラックスした時に出現するとされています。ストレスや精神的緊張時により増強し、集中により減弱するという特徴があります。また、チックに先立ち、ムズムズ感やチクチクする感覚が現れて、チックをせずにはいられないという前駆症状がしばしば起こります。
チックの症状には「運動性チック」と「音声性チック」に分類され、さらに「単純」と「複雑」のタイプに分けて考えていきます。
|
運動性チック
|
音声性チック
|
単純チック(始めに出現する)
|
- 最もよく見られるチック
- 肩から上に出現する
- まばたきが最も多い
- 横目、顔のしかめ、首振り、肩すくめ、白目をむく、口をゆがめるなど
- 顔面のチックが多い
|
- 咳、咳払い、ブタのようにうなる、鼻鳴らし、「アッ、アッ」と声が出る、吠える
|
複雑チック(多くは10歳以降)
|
- 手足や全身に出現する
- 身体のいろいろな部分が一緒に動くチック
- 身体の表情を変える
- 飛び跳ねる
- 人や物に触る
- 叩く
- においを嗅ぐ
- 反響動作がある
|
- 汚言症(汚い言葉を発する)
- 反響言語(他の人が言った言葉を繰り返す)
- 反復言語(自分の話した音声や単語を繰り返す)
|
一過性チックは、4週間以上1年未満のチックを言います。運動性と音声性、または両方が併存する場合も一過性チックです。目をパチパチする症状が数ヶ月持続し、いつの間にか症状がなくなっています。
「運動チック」と「音声チック」の両方が、1年以上みられる場合はトゥレット症候群と呼ばれます。およそ1万人に1~5人くらいの割合だと言われています。慢性的なチックでも、その大半は、少しずつ症状が軽くなり思春期以降になると、症状が消失し、生活に支障が出ないほどの症状が見られる程度になります。
吃音の症状や特徴
吃音には、「連発」「伸発」「難発」といった3つの症状があります。
|
症状の特徴
|
連発(繰り返し)
|
音や語の一部を繰り返す状態になります。特に最初の音を繰り返します。
例えば、「こんにちは」という言葉⇒「こ、こ、こんにちは」
|
伸発(引き伸ばし)
|
語の一部が伸びてしまう状態になります。言葉の最初の音から、次の音にうつるまでのタイミングが遅くなります。
例えば、「あした」という言葉⇒「あーーあーした」
|
難発(ブロック)
|
言葉を発するときに詰まってしまう状態になります。のどに力がはいり、最初の音だけ大きくなります。
例えば、「おはよう」という言葉⇒「(……)っおはよう」
|
この3つの症状は、単発で起きる場合もあれば併発する場合もあります。その他にも、吃音には次のような二次的症状も起こることがあります。
- 随伴運動(手足をばたつかせる、身体の前屈、話している時に顔をしかめる、足を叩く、舌を出すなど、必要以上に体の一部に力が入ったり動かしたりする)
- 工夫・回避(どもりやすい言葉、苦手な行を話さないように、他の言葉への置き換えや話すことへの回避を見せる)
症状の現れ方には波があり、特定の要因がなく吃音が出やすい時期、出ない時期が繰り返されます。また、話している状況や内容、話す相手によっても変化することもあります。
大人の吃音の場合は、社会においてのコミュニケーションの妨げになることで、職場や恋愛の場面で大きな支障を来すことになります。
チック・吃音の診断
チックや吃音において、他の疾患と区別するために診断基準が設けられています。ここでは、詳しく解説していきます。
チックの診断
チックは、症状と経過から確定診断をすることが多いですが、症状がてんかんや強迫行動などと類似していることもあるため、詳しく検査をする場合があります。
チックの診断は、症状と持続期間によって確定されます。アメリカ精神医学会DSM-5では、次のような診断基準が示されています。
- 1種類または多彩な運動チックおよび/または音声チック
- チックの持続は最初にチックが始まってから1年未満である
- チック症の発症は18歳以前である
- この障害は物質(例:コカイン)の生理学的作用または他の医学的疾患(例:ハンチントン病、ウイルス性脳炎)によるものではない
- トゥレット症または持続性(慢性)運動または音声チック症の基準を満たしたことがない
また、トゥレット症候群についても診断基準が示されています。
- 多彩な運動チック、および1つまたはそれ以上の音声チックの両方が、同時に存在するとは限らないが、疾患のある時期に存在したことがある
- チックの頻度は増減することがあるが、最初にチックが始まってから1年以上は持続している
- チック症の発症は18歳以前である
- この障害は物質(例:コカイン)の生理学的作用または他の医学的疾患(例:ハンチントン病、ウイルス性脳炎)によるものではない
また、チックに合併する症状として、注意欠陥多動性障害(ADHD)や強迫性障害(OCD)、不安障害、発達障害、睡眠障害があるとされており、様々な症状が併せ持っているといえるでしょう。
吃音の診断
吃音は、アメリカ精神医学会DSM-5で「小児期発症流暢障害」として診断基準が示されています。
- 会話の正常な流暢性と時間的構成における困難、その人の年齢や言語技能に不相応で、長期間にわたって続き、以下の1つ(またはそれ以上)のことがしばしば明らかに起こることにより特徴づけられる
- その障害は、話すことの不安、または、効果的なコミュニケーション、社会参加、学業的または職業的遂行能力の制限のどれかひとつまたは複数の組み合わせを引き起こす
- 症状の始まりは発達期早期である
- その障害は言語運動、感覚器の欠損、神経損傷に関連する非流暢性または、医学的疾患によるものではない
吃音は、子どもの場合平均発症年齢2~4歳で20人に1人、大人の場合は100人に1人の割合で発症するため、決して珍しい障害ではありません。
チック・吃音の治療
チックの治療
チック症は、症状が軽い場合は特に治療をせずに経過を見ることで治ることが多いです。しかし、何もせずに経過を見ていれば良いわけではありません。本人や周りの方がチックに対して正しく理解し、学校や社会生活に困らないようにサポートすることが大切です。
主なチックの治療法は、次の4つの方法が挙げられます。
- 心理教育および環境調整
- 認知行動療法
- 薬物療法
- 外科治療
それぞれの治療法について、具体的にご紹介します。
|
治療の方法
|
心理教育および環境調整
|
- 心理教育は、チック症の本人やご家族、学校や職場などの周りの人々の理解を促す
- 環境調整は、チックの症状を悪化させることを防ぐ
- ストレスが少ない環境に減らす工夫や、チック症を直接的な指摘をしない配慮、症状が悪化したときに退避できる場所を用意する
|
認知行動療法
|
- 学習の法則に基づいた行動の調整を目指す行動療法
- 本人の認知の仕方を変えることで、ストレス軽減を目指す認知療法
|
薬物療法
|
- 重症なチック症に対して、薬物療法を行うことがある
- チック症やそれに合併している疾患などを考慮した上で治療を行う
- チック症の治療薬で、最も使用されるのは抗精神病薬
|
外科治療
|
- 上の3つの方法で症状が軽快しない場合、難治性のチック症の場合は手術を選択する
- ことがある深部脳刺激療法(DBS)という手術を選択する
|
チック症は、子どもの場合は小児科や小児神経科で診察を受け、大人の場合は精神かや神経内科を受診することがおすすめです。
吃音の治療
吃音の治療には、その子どもの年齢や症状、成長発達、家族の状態に合わせた支援を行うことが大切です。具体的には、次のような方法があります。
- 環境を調整する
- 楽な発話を誘導する
- 直接的な発話訓練をする
- 小児版流暢性形成訓練
吃音が始まった時期から短い方が、治療の効果が高いと言われています。言語発達や発話運動機能が成熟しやすく、環境面の調整による効果も高いでしょう。
子どもの吃音により保護者の不安が強くなった場合は、保護者への支援も行います。周囲からのいじめ、からかいによる心理的な苦痛が最低限で済むことでしょう。
吃音のある大人の場合では、リハビリテーション科のある病院や耳鼻咽喉科で、言語聴覚士による言葉の訓練を行うことになります。
また、吃音が原因で人とコミュニケーションを取ることから避けたり、嫌な思いや悩みが大きくなったりした場合は、社会不安障害などの精神疾患を合併する恐れもあります。専門医に相談した上で、必要であれば薬物療法の対象となる場合もあるでしょう。
チック・吃音のある方への支援
チックのある方への支援
チック症の治療には、前述したように「心理教育や環境調整」「薬物療法」「認知行動療法」があります。その他に、チックを持ちながら前向きに生活できるように支えることが必要です。
家族や周りの方への心理教育として、次のようなポイントに沿ってチック症の理解を促します。
- 運動を調整する脳機能の特性や素質が基盤にあり、親の育て方や本人の性格に問題があるわけではない
- チックの変動性や経過の特徴を理解し、些細な変化で一喜一憂しない
- チックを本人の特徴の一つとして受容する
- チックのみにとらわれず、長所も含めて本人全体を見る
- チックを悪化させるかもしれない状況があれば、その対応を検討する
- チックや併発する症状、それに伴う困難を持っていても、本人ができる目標を立てて努力することを支える
チックの重症度にかかわらず行うもので、チック症の治療として基本になることです。
チック症の方は、自立支援医療を受けたり精神障害保健福祉手帳も発行できます。発達障害に含まれるので、就職では就労移行支援を受けることができます。
吃音のある方への支援
吃音があるお子さんに対しては、「ゆっくり話そう」などのアドバイスをしたり、子どもが言う前に先に言ってしまう、もう一度言い直させたりすることは避けましょう。子どもの話したい、伝えたいという気持ちを抑え込んでしまいます。
子どもの話を最後までじっくりと聞いてあげることが大切で、たとえ友達に指摘されたりからかわれたりしていると分かった場合は、早急にその状況を止めさせる必要があります。
また、吃音は発達障害者支援法の対象になるため、「ことばの教室」などのクラスに通うことができます。また、先生への理解を徹底させて、みんなの前で発表するときには事前に練習したり、複数人で行ってもらったりすると良いでしょう。吃音があるということを、クラスメイトにも理解してもらい支援することが大切です。
具体的な対応方法は、次のとおりです。
- 吃音自体には注目せず、話している内容をしっかり聞く
- ゆったりと余裕をもって聞く
- どうしても言葉が出ない場合は、話そうと思ったことを推測して言葉を返す
- 得意なことに目を向け、自己肯定感を上げる
- 周囲の子どもへの対応を丁寧に、分かりやすく
- 吃音を指摘したりからかったりした場合は、止めるように対応する
気になる場合は、ことばの専門家である言語聴覚士に相談をしてみることをおすすめします。
大人の吃音の場合は、本人が吃音であることを隠すためにコミュニケーションを積極的にとらない人が多いです。社会生活に大きく影響を与えるため、周りの人の理解とともに自分自身でも、「話すこと」ではなく「伝えること」を意識したり、発言の練習をしたりと訓練することも大切でしょう。